【イベントレポート】アート界隈の人々 第1回 展覧会エンジニアってなんですか?

2015/09/24

新たに始まったトークシリーズ「アート界隈の人々」。
芸術祭や展覧会では、参加するアーティストや企画を監修するキュレーターに注目が集まります。ですが、芸術表現を紹介するその特殊な現場には他にも色々な役割があり、専門的な知識と経験を持つたくさんの人々が関わっています。芸術祭・展覧会は、そういった専門家なくしては実現されません。
例えば、絵画や彫刻といった作品の輸送を例にとると、作品を管理するレジストラーや作品の保存・修復を専門にするコンサバター。展示会場作りでいえば、空間をデザインする建築家やそれを作る施工の専門業者、配線のための電気工事業者やデジタル機材を取り扱う機材レンタル業者など、実に多様です。

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今回のゲスト、金築浩史さんは展覧会エンジニア。
メディア・アートの作品展示では欠かせない専門家です。メディア・アートの展示現場ではプロジェクターなどのデジタル機器を多く使用します。キュレーターは作品について把握していますが、機材等の専門的な部分に関してはわからないことが出てきます。機材を扱う専門の業者は逆に、機材は熟知していても、作品がどういったものかまでは把握していないので、作品に適切な設置方法や場所はわかりません。そういった、それぞれの立場の専門家が把握しきれない部分を把握し、アートティストの希望も踏まえて、展覧会を実現するための準備や制作を担うことになるのが展覧会エンジニアです。作品のことを理解した上での機材選定、設置、造作、配線等を行います。

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金築さんが最初にメディア・アートに出会ったのは1991年。東京都写真美術館の準備室で展開された、「自らの身体」をメディアとし活動するオーストラリア人アーティスト、ステラーク(Stelarc)のパフォーマンス作品《Third Hand》でした。そのパフォーマンスの準備をしていたのがザ・レーザー社で、金築さんはこの会社に入社します。そして、たまたまその上司がハイテクノロジーアートの仕事をしていたことから一緒に展覧会の仕事をするようになった、というのがこの仕事を始めた経緯ということでした。

翌年の1992年には長島スパーランドで行われた「ザ・ロボット展」に参加。アーティストの作品制作・展示を彼らと話し合いながら共同で行い、ここでの経験が金築さんの仕事に対する取り組みの基礎になったそうです。 1995年にはIAMAS(情報科学芸術大学院大学)での「Interaction 95」展など、当時先進的な取り組みをしている多くの展覧会に参加。
それらの貴重な搬入風景や展示の様子、当時のメモなどをプロジェクターで映し出しながら、それぞれどのように関わっていたのかが紹介されました。

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展覧会エンジニアと、展覧会やアーティストとの関わり方は様々で、電子回路の基盤からアーティストと一緒に作ることもあれば、自動的に動くプログラムを書いたり、会期中に来られないアーティストの替わりにメンテナンスを行ったり、プロジェクター設置台の作成や機材の運営マニュアルを作ったりもするそうです。それら金築さんの仕事の経験談は、普段単に鑑賞しているだけでは決して知ることのできない展覧会の様々な側面を見せてくれました。 現在フリーの展覧会エンジニアとして活動する金築さんのもとには、展覧会やギャラリーからの依頼はもちろん、アーティストから直接依頼が来ることもあるそうです。「金築さんが入ってくれるなら安心」と多くのメディア・アーティストが口を揃えて言うほど、メディア・アートの展覧会では欠かせない存在となっています。

最近では、IAMASで、プロジェクターを用いてインタラクティブな作品を制作する授業の講師も担当。この授業は、作品制作からではなくプロジェクターの仕組み説明から始まり、1ヶ月間展示を保つ設置方法や、設置するときの危険性、そして機材の取り扱いについて入念に説明した上で作品を考えてもらったそうです。こういった活動の中から今後、機材に振り回されずに作品制作が行えるアーティストや金築さんのような展覧会エンジニアという専門家が生まれるかもしれません。

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次回の「アート界隈の人々」は10月3日(土)「コーディネーターってなんですか?」と題して、アート・コーディネーターとして活躍する帆足亜紀さんとSIAFラボマネージャーの漆崇博をゲストに迎えます。アートにおけるコーディネーションとはどのようなものかを話していただきます。お楽しみに!

2015/09/24