「Side Effects 2022-2024」では半世紀前に音楽家のデーヴィッド・チュードアらによって構想された孤島を丸ごと楽器化する未完のコンサート計画《Island Eye Island Ear》(以下:IEIE)の今日的な実現可能性を北海道を舞台に探求しています。昨年夏に公開されたPhase 1では『IEIEクロニクル』と称して、IEIEに関わるさまざまな出来事のネットワークを時系列上に結びつける年代記を展示しました。続くPhase 2『ロケーション・ハンティング』では時間から空間に焦点を移し、実際にリサーチを行なった道内の鴎島(江差)、大黒島(室蘭)、弁天島(朱鞠内湖)の記録映像に加えて、その副産物として訪れた先々で出会った専門家や研究者のインタビューの文字起こしを、データ分析によって隠れた関係を可視化しながら、北海道の巨大な地図上に配置して展示します。
「ロケーション・ハンティング」という言葉は、おもに映画やテレビの制作において、求めるイメージに合う屋外の撮影場所を探すことを指す和製英語です。「場所を狩る」という独特の表現は、IEIEの実現に適した島を探し回った一年の活動にふさわしいことはもちろんですが、その過程で判明した意外な「罠」とも結びつきます。それはSIAFラボが筋金入りの釣り好き集団であり、ロケハンを表の目的、それぞれのロケーションで出会った専門家とのインタヴューを表の副産物として掲げながらも、じつは行く先々で寝る間も惜しんで魚を狩ることを楽しみにしていたことです。こうして「ロケーション・ハンティング」は「ハンティングのロケーション」に転じつづけ、目的と目的を達成する過程に付随する副産物(サイド・エフェクト)の区分はだんだん多層化して、曖昧になっていきます。とはいえ、魚が「側線」という側面の感覚器官で獲物の微細な動きを感知するように、狩りとは単に目的に向かって焦点を絞るだけではなく、フォーカスの端(サイド)の感覚を研ぎ澄ます営みでもあるでしょう。そして罠とは、狩人ないし釣り人が目的とする獲物に仮の目的——擬似餌——を与え、それに焦点を絞らせることでできた盲点をつく仕掛けだと言えます。その意味で、まだ見つからない島の探求とその副産物たるインタヴューに劣らず、水面下に隠れる魚を釣ることもまた「サイド・プロジェクト」であるのかもしれません。
中井 悠(アーティスティック・リサーチャー)
展示構成について
床に広がる地図上には、リサーチで訪れた島の情報の他に、リサーチを通して出会った人物のインタビューが並んでいます。ハイライトされた幾つかのキーワードに注目すると、一読しただけでは気づくことのなかった相似や、意外な関係が見えてきます。また、プロジェクトでリサーチを続けている数種類の指向性スピーカーから、インタビューの音声がサウンドビームとなって地図上を飛び交い、その収録地点を指し示します。分離された文字と音声は、地図上で空間的に結節点を持ち得るだけでなく、私たちの「目」と「耳」から脳に入力されることで、より多層的かつ偶発的な意味を生み出します。《Island Eye Island Ear》の北海道での実現を探るリサーチから生まれた副産物が、さらなる副産物を生み出します。
〈インタビュイー〉
宮井 和美(モエレ沼公園 学芸員)
中村 誠宏(北海道大学教授、苫小牧研究林林長)
高橋 廣行(北海道大学南管理部技術室 室長・苫小牧研究林 森林保全技術班長(兼)・技術専門職員)
吉川 幸伸(有限会社トライステート代表)
池田 貴子(北海道大学特任講師 専門:動物生態学)
藤澤 正裕(ハンター)
古澤 正三(北海道大学特任講師)
松王 政浩(北海道大学 理学部 教授 専門:科学哲学)
〈インタビュアー〉
中井 悠 (Side Effects 2022-2024 / アーティスティック・リサーチャー)
明貫 紘子(Side Effects 2022-2024 / キュラトリアル・リサーチャー)
小町谷 圭(SIAFラボ)
石田 勝也(SIAFラボ)
船戸 大輔(SIAFラボ)
平川 紀道(SIAFラボ)
漆 崇博 (SIAFマネージャー)
奥本 素子(CoSTEP)
朴 炫貞 (CoSTEP)
会期:2023年2月4-14日
場所:札幌文化芸術交流センター SCARTS モールC
協力:北海道大学 北方生物圏フィールド科学センター、公益財団法人札幌市公園緑化協会、室蘭市